日系中国企業を中国国有企業に売却するM&Aにおいて、当社が評価査定の依頼を受け、この度報告書を提出した。当社の評価手法の特色は、先進的な欧米式の評価方法であり、日本でも殆ど見られない手法により評価した。
中国当局でも今回の評価報告書については大きな話題になると思われる。
その評価手法を説明すると次の通り。
業種  銅関係業種                       
1.評価の基本理念
        客観的な視点
        資料の重視
        経営計画書の実効性                                           
2.評価の体系       
  
    マーケット分析  企業体分析 リスク分析
                                ↓
    経営戦略
                               ↓
  経営計画
                               ↓
       生産販売計画 → 損益計画 → キャッシュフロー予測
3.分析項目
  ① マーケット分析
     銅の生産分析  鉱山会社情報・新規開発鉱山情報・生産国情報
     銅の需要分析  国別消費情報・業種別消費情報・在庫情報
     銅の相場分析  国際相場の過去10年間の分析・専門機関の価格予測
    上記分析は、世界市場と中国市場について詳細データからビジネス環境と商品
    市況を行い、今後の価格を予測した。更にビジネス自体の将来を予測
    したものである。
  ②企業体分析
    会社自体を次の項目について詳細に分析する。
     ・スキル分析   生産能力、機械の耐久力、生産技術力
     ・実績分析    過去5年間の生産量、原材料の投入量、稼働率
     ・財務分析    過去5年間の損益実績、資産負債査定
  ③リスク分析
     ・法務デューデリ 労務契約、不動産権利関係、商務取引契約
     ・税務リスク分析 税務申告の適法性(企業所得税・増値税・源泉税等)
     ・営業リスク分析 販売先の持続性分析・原材料調達の持続性と価格の適否
     ・経営リスク   資金力、管理力、人材と組織の合理性
  ④経営計画
     ・生産計画    将来10年間の生産計画を稼働率から算定
     ・販売計画    販路の拡大計画、銅相場の予測
     ・投資計画    生産計画に伴う投資計画
     ・コスト計画    生産、販売計画に伴う見込みコストの算出
  ⑤損益、CF計画
     ・予定損益    経営計画に基づく予定損益計算書の作成(10年間)
     ・予定キャッシュフロー   投資計画、予定損益に基づくキャッシュフローの計算(10年間)
4.企業評価
     DCF評価     10年間のキャッシュフローの現在価値による評価
     純資産評価    純資産に営業権を加算して評価。営業権は超過利益をベースとして算定。
 
   ◎ 総合評価 上記評価金額の平均価格に経営権を加算した金額
 
簡単に述べると上記の通りであった。分析データは表とグラフを用い、専門知識の全くない者でも理解できる工夫をした。
尚、このレポートを作成するに必要な知識は次の通りであった。
     マーケット分析学・工場生産管理知識・国際ビジネス法務
     中国関係(会社法・投資法・会計税務・労働法)
以上、クロスボーターM&Aの概容を説明してみた。
日本では、相手の説明を鵜呑みにして殆ど分析もせずに会社を買ってしまい、大きなリスクを伴い、後日に損失を被るケースが圧倒的に多い。M&Aの進化した欧米では綿密な分析と経営計画のもとに実行される。特に海外の会社を買収する場合には日本人の勘や常識では絶対に判断できないリスクがあることを認識することが求められる。
出 津 平